森脇 | これは、大いなる仮説なんですけど、 あながち全て間違ってると言えないと思うんですが。 |
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-- | はい。 | |
森脇 | 音楽好きな人で、昔の「ナイスミドル」な世代で、 音楽はジャズが好きだとかといって聴いていたけれど レコードからCDに移ったときに音楽を集めるのを止めた人って、 いると思うんですよ。 |
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-- | ああ、はい。レコードのときはあんなに集めていたのに、 音源がCDになって買わなくなった人。 |
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森脇 | そのままCDに移行した人たちもいますが、 せっかくこれだけレコードを買ったのに わざわざCDを新しく買うのもなあと思った人たち。 音が良いのはわかるけどよ、と。 古いやつは捨てるわけにもいかないから これはとっておこうと。 でも、新しく買い直すのもどうかと思うし、 これからCD集めはじめるのも、うーん、 ・・・みたいになって止めちゃった人も いると思うんです。 |
-- | たしかにCDに移行した時期って レコードって無くなってしまうもののように思われました。 |
森脇 | 「レコードが憧れ」という時代は この10年ほどですからね。 |
-- | そうですよね。 |
森脇 | レコードに移行してから最初の5年、10年は、 一般的にはレコードが古くすたびれたアイテムに 思われてしまった時期があった。 |
-- | CDに買い変えてレコードを売る人もいました。 |
森脇 | 今は逆にレコードがいいよと言われたり、 DJとかもレコードを使うし、ヴァイナル切った方がいいんだ、 おれはレコードでリリースしたいんだ っていうミュージシャンもいたりだとか。 ・・・というふうになるまでの期間に、 音楽を聴くのを止めたり離れてしまった人って いると思うんですよ、好きだったのに。 |
まったくそれと同じことがスキーに言えるのかなというのがあって。 「いや、すごく曲がりやすいんですよ、カービングスキーって!」 って、移行した人は言うんですよ。 移行できなかった人は、今さら道具も買って、 乗り方もちがうんじゃなあ、って思ってしまう。 |
-- | いまのスキー板は、カービングスキーって言うんですね。 じつはわたしが最近スキー場に行ったのが2年前なんですけど、 それが19年ぶりだったんですよ。 スキー板なんかもちろん持っていないので 札幌国際スキー場でレンタルしたんです。 あれは、きっとカービングスキーだったんですよね? |
森脇 | 2年前でカービングじゃないスキー場はないですね。 |
-- | 久しぶりなのに、なんだかすごく滑りやすいなと思ったんです。 向きを変えたりしやすい気がしました。 |
森脇 | そんなふうに、過去のスキーを忘れて 新しく始める人には、何の抵抗もないのだと思います。 でも、当時級を持っていた人たちにとっては、 いまさら新しい道具を買ってどうなんだろうというのがあって。 大きく道具が変化してきたことによって、 なんだか古いスキーに乗っている人のような気がしてしまう。 |
-- | そんなに違いますか。 ほとんどスキーをしないので全然ピンと来ないんです。 |
森脇 | スキーをしてる人たちに言わせると、 見た感じで言えば、スポーツカーと軽トラくらい違います。 みんながスポーツカーに乗ってるところに ひとり、軽トラックに乗ってくるような感じ。 軽トラが悪いわけじゃなくて、見た目が違うと 本人は劣等感を感じる。 |
-- | そんなに! 具体的には、うーん、 何がどういうふうに違うのでしょう。 |
森脇 | 見た目ではっきり、違うのがわかります。 太さが違うし長さが違います。 顔が違う♪癖が違う♪(・・・と、山口百恵さんの 「イミテーション・ゴールド」のメロディーで歌いながら) えー、これが現代のスキーだとしたら、 これが昔のスキーです。 これくらい違う。 |
-- | へえ。そっか。そっかあ。 |
森脇 | カービングスキーが出てきてスキーを止めちゃった人たちが、 乗りやすいとわかっていても新しく買うのを躊躇するのは、 我流でうまくなった人たちが多いので、 (当時くらいの技術レベルまで上達するように) 「習う」ことに抵抗感があるからだと思うんです。 だから、たまにスキーをしていたような人と比べて、 逆にすごく抵抗があって、スキーに戻りにくいんじゃないか という気がするんですよね。 |
-- | なるほど・・・。 上手かった人ほど、10年以上経ってから新たに始めるのに 抵抗があるのかもしれませんね。 |
森脇 | それに、道具をゼロから全部そろえると、 安くても、ある程度のものをウエアから全部そろえると 10万円はかかる。 |
-- | それだけのお金を 何回乗るかわからないスキーのために使うのは けっこうな思い切りが必要ですね。 |
森脇 | だから、どうにか良い方法がないだろうかという点が 今後のスキーのテーマで。 ぼくは、レンタルを無料にして利用者を増やす仕掛けが 作れないものかと考えています。 |
-- | 2年前にスキー場に行った時は、 スキー、ブーツ、ポールのセットにゴーグルという フルセットを借りて、5千円ちょっとくらいでしょうか。 いちおう、行く前に、一式買った場合とレンタルした場合とを 比べて考えてみたんですけど、 ひと冬そんなに行かないとなれば やっぱり借りたほうが安いなとは思いました。 |
森脇 | それが、レンタルがタダとなれば、 みんなもっと行くのではないでしょうか。 |
-- | わたしについて言えば「行く」と思います。 |
森脇 | もっと多くの人が行ったら、その中から スキーにハマっちゃう人が出てきますよね。 で、その先に何があるかっていうと、 ぜったいに欲しくなるんですよ、自分のスキーが。 だから、メーカーはスキー場にタダで配りましょうと。 スキー場も、タダでもらったら、タダで貸しましょうと。 たとえば、平日はお客さんが少なくても リフトが回り続けていているので、 レンタルスキーをがんがん回したら良いと思うんです。 |
-- | リフトは、お客さんがいてもいなくても動いてますものね。 |
森脇 | お客さんがいっぱいきて、それで スキーが好きな人が増えるんだったら、 2年後、3年後にスキーを買う人が増えるんじゃないのかなと ぼくは思うんですけれども。 |
-- | そもそも、いまの若い人たちは どんなきっかけでスキーを始めるのでしょうか。 私たちの世代だったら、冬と言えばスキーに行っていましたが。 |
はぎ | 札幌で育った人たちはたいていスキーを習っているので、 そのまま続けるか止めてしまうか、ですね。 一度止めた人を復活させるのが相当難しい というのはわかっています。 問題は、じゃあ、それをどうするか、ですよね。 |
(つづく)
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話・森脇俊文
撮影協力・kenon(ケノン)(札幌市北区新琴似5条12丁目5-17)
カービングスキーについて
カービングスキー(carving ski)とは、スキー板の側面の切り込み(carve)を従来よりもきつく入れることで、曲がりやすく開発されたアルペン用のスキー板のこと。1990年代に登場し、現在はすべてのスキーメーカーがカービングスキーを生産しています。