山中さんヒグマのことを教えてください
ヒグマの住む北の大地北海道。土産物店に必ずあるのはクマの木彫り。ときどき出没するニュースを見るくらい近くに住むのに、同じ大地に住む私たちはヒグマのことをあまりにも知らなすぎると思いませんか。今回のインタビューは、ヒグマのことをもっと知る導入編。野生のヒグマに日々接している(財)知床財団の山中正実さんにお話をうかがいました。山中さんのプロフィールはこちらです。

第5回 仕組みが無い!

-- 本当に危険なときや、危険を防ぐための
社会的な仕組み自体が、そもそも無い、と。
山中 そうです。
最近までは、それぞれの地域に猟友会のハンターの人たちがいて、
その人たちが趣味の一環で、
何かあれば呼び出されて撃つ、ということができた。
-- でも、趣味の範囲で、ということですよね。
山中 そうです。社会の仕組みではなく、
趣味の人たちにおんぶにだっこなんです。
「クマが近くにいては怖いからなんとかしてください」
と地域に言われるから、行って撃つだけであって。
「仕組み」ではないんです。

札幌てくてく 山中さん、ヒグマのことを教えてください。

-- 撃つ人がいれば撃ってもらう、という。
山中 撃つ必要もないクマまで撃ってしまっている
ということが問題なんですけれどもね。
それでももう、「なんとかなっていた」状態では
なくなりつつあるんです。
-- 本当に危険なときに対応できる状態では
なくなってきた。
山中 というのは、猟友会の人たちも
どんどん高齢化してまして。
平均年齢が60才くらい。
-- そのうちに撃つ人がいなくなってしまう。
山中 だから、もう10年もすれば、
「ただ撃ってもらえればいい」という安易なやりかたさえも
できなくなるんです。
そうなったら困るなというのが現状です。
これは、北海道だけの問題ではなく、
全国津々浦々同じなんですけどね。
本州なんかも、イノシシが出てきたり、
猿が出てきたり、クマも出てきたり、という報道が
あちこちでされているじゃないですか。
それは、人間社会と奥山の緩衝帯として機能していた
里山がだんだんなくなって、
里山だったところが奥山化しているというのが
一つ要因としてあるわけです。
なおかつ、狩猟をする人たちがどんどん高齢化して、
いなくなってきている。
-- 人間が都市の生活しか見ていないうちに。
山中 高度成長経済の時代に、どんどん
奥山へ追いやられた。
それは開発と、北海道で言えば
春グマ駆除による獲り過ぎとで、
どんどん奥山に追いやられていた獣たちが
反撃を開始しているんですよ。
-- 一方で、知床では、10/26の山中さんのブログで書かれているように
市街地近くに出てきたヒグマでも、
駆除する必要のない場合は駆除しないように、
チームになって組織的に山のほうに追いやる
という対応をされていますね。

山中さん、ヒグマのことを教えてください。

山中 でも、そういうことが実行可能な人が、
地域社会の中にほとんどいないのが現実です。
いまは、かろうじて猟友会の
60を過ぎたじっちゃんたちがやってますけれども、
それはただ殺すだけ。
殺すだけの対応は、あと10年くらいは
何とかなるかもしれないけれども、
いろいろな手法を使って
共存を図るための技術を持っている集団が地域にあるというのは、
北海道では、知床以外にはないのです。
-- うーん。
山中 本州ではいくつかありますけどね。
だから、一般市民としては、
クマを引きつけないように気をつける。
レジャーとかで、あるいは仕事とかで山に入るときは
ちょっとしたことに気をつけて
不幸な出会いをしないようにする。
そんな、ちょっとした心がけをすれば、
恐れることではないのですよ。
-- 守るべきことを守っていれば。
山中 だけれども問題あるクマが出てきたときに対応するのは、
一般市民では難しいですから、
それは行政なり地域社会なりが
仕組みとして用意しておかなくてはならない。
いまあるのは、仕組みでもなんでもないわけで、
しかも趣味の人におんぶにだっこの状態さえ、10年後には消滅する。
これが現実です。
-- とにかく仕組み作りが急がれるわけですね。
山中 タイムリミットが目の前に迫ってるんですけれどね。
行政に、すぐにでも動いてほしい問題なのです。
-- この話を、たくさんの人に聞いてほしいなあ。

(つづく)
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話・山中正実(財)知床財団)/ 協力・(財)知床財団